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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)218号 判決

上告人

工芸信販株式会社

右代表者

簾藤八朗

右訴訟代理人

櫻井英司

被上告人

中野隆雄

右訴訟代理人

天野博之

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人櫻井英司の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件手形の受取人「ミツワ商品株式会社」と第一裏書人「ミツワ商品株式会社黒田知弘」との間に裏書の連続があるものとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 栗本一夫 木下忠良 宮﨑梧一)

上告代理人櫻井英司の上告理由

原審判決は手形法第七七条、一六条の定める手形の裏書の連続につき、解釈を誤り判例に違反した違法がある。

即ち、

一、原審判決は

甲第一号証の一、二によれば、右手形の受取人欄には「ミツワ商品株式会社」と記載されており、その第一裏書人欄には、まず「東京都中央区日本橋蠣殻町一丁目九番二号ミツワ商品株式会社」との記載があり、その下段に「黒田知弘」の署名及び「黒田知弘」と刻した印影が押捺されていることが認められ、右第一裏書人の表示は、右会社の表示であつて黒田の代表ないし代理資格の記載を欠いたに過ぎないものと解しうるのであるから、受取人と第一裏書人の表示につき、裏書の連続があるというべきである。

と判示している。

二、だが、法人の裏書の方式は、単に法人名を記載し、その下段に個人名を記載して個人印を捺印しただけでは足らず、代表機関が法人のためにすることを示して、みずから署(記)名捺印することを要する。すなわち法人の代表機関であることを手形面だけで識別できるように表示することを必要とする。(最高三小昭四一・九・一三判、民集二〇巻七号、一三五九頁など)

三、しかるに、本件においては、第一裏書人欄に「ミツワ商品株式会社」との法人名と「黒田知弘」なる個人名が記載されているにすぎず、また、印影は黒田と刻した印であつて、会社名或は代表機関を表示する印ではなく、「黒田知弘」なる者が「ミツワ商品株式会社」という法人の機関として同法人のためにする表示が欠けているのであるから、本件の第一裏書は「ミツワ商品株式会社」なる法人の裏書であるとは到底認めることができない。

四、原審判決は、この点につき「黒田の代表ないし代理資格の記載を欠いたに過ぎないものと解しうる」としている。だが、手形の裏書の連続の有無については、手形上の記載自体につき判断すべきであることは、原審判決が自から判示しているところである。そうだとすれば「代表ないし代理資格の記載を欠く」裏書は、その手形上の記載の形式からして、法人の裏書の表示ということはできないことになる。しかるにこれにつき、代表ないし代理資格の記載を欠いたに過ぎないものと解するのは、手形上の記載の欠陥を推理によつて補うもので、手形上の記載自体につき判断すべきであるとの枠を超えた推論であり、原審判決は自家撞着の誤りを犯している。

五、以上のとおりで、原審判決およびこれと同趣旨の第一審判決、並びに手形判決は、裏書の連続の解釈を誤り前掲の判例に違反しているので取消されるべきである。

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